Awaji-Island Journal
WithKan Izumi
People
瀬戸内海に浮かぶ自然豊かな島、淡路島。和泉侃は、この地を拠点に香りの制作や、香りにまつわる素材の収集、研究を続けている。風土の匂いやその土地らしさを感じられる、フレッシュでパワフルな淡路島の植物に圧倒され、生まれ故郷である東京から越してきて6年。山へ海へ、草むらへ、島をめぐりながら和泉の後をついていくと、あっという間に採取した植物で両手がいっぱいになる。自然の音に耳を澄まし、目で確かめ、植物を触り、匂いを嗅ぎ、時に食す。五感を研ぎ澄ますということが、ここではごく当たり前な行為であるということに気づかされる。そんな和泉の実験的活動は、島の東海岸側、山の上にあるアトリエで静かに行われている。それが『胚』だ。
“夜明け前のクリエイション”——自身のアトリエを、和泉はそう称する。香りは目に見えない。その目に見えないものを生み出すプロセスもまた、目に見えないが、細胞分裂を繰り返すように日々新たなクリエイションが生まれている。その状況を植物の「胚芽」にたとえ、この場所を『胚(はい)』と名づけた。植物、土、水……香りを構成する素材を知り、ほんとうに必要なものは何かをつきつめる。香りを通して感覚の蘇生を行っているのだと和泉は言う。
Places
“Location, location, location.”1616 / arita japanのコレクションに加わった「Scent by TY “Standard”」の香りのディレクションも、和泉によるものだ。香りを手がける際、場所のルーツやそこに息づく情景を素直に感じるプロセスを大切にしている和泉は、まず最初に有田を訪れ、1616 / arita japanが生まれたこの土地にふさわしい原料を探した。そこで得た1616年から積み重ねてきた時間の層のイメージをインスピレーションに、元来有田で焼成の燃料に使われていた松、有田焼の白、そして有田のショールームという空間の力強さとそこに広がる赤みを帯びた素材の色彩といったエレメントを香りに置き換える。そうして完成したのは松の香りをベースに、リトセア、カルダモンなどのビビッドな素材を加えた、ウッディかつ鮮烈な香り。まったく新しいものでありながら、最初からここにあったような哀愁さえも感じられるような、まさにブランドのシグネチャーとなる香りのクリエイションが実現した。
One day at Awaji Island…
Photography by Ko Tsuchiya